ヒューマンドラマ

【オススメ度★★★★★】スラムドック💲ミリオネア/オスカーを獲ったのは運命!?

概要

「トレインスポッティング」のダニー・ボイル監督が、スラム育ちの青年の運命と過酷な半生を疾走感あふれる演出で描いた人間ドラマ。インド・ムンバイのスラム街出身で無学の青年ジャマールは、TV番組「クイズ$ミリオネア」で最終問題までたどり着き、一夜にして億万長者となるチャンスをつかむが、不正を疑われてしまう……。インドの外交官ビカス・スワラップによる原作小説を、「フル・モンティ」のサイモン・ボーフォイが脚色。第81回アカデミー賞では作品賞、監督賞ほか最多8部門を受賞した。もう映画の素敵な点がすべてある!

あらすじ・考察

「あるがままを受け入れるということを学んだ」ダニー・ボイル監督

製作費は約1400万ドルという低予算、劇中の言語の3分の1は外国語(ヒンズー語)、そしてスター俳優は一切出ていない作品ながら、見事アカデミー賞8冠に輝いた本作。ボイル監督は成功の理由をこう分析する。

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「受賞した瞬間を今でも思い起こすよ。この映画の成功はストーリーによるところが大きいと思う。一人の少年、つまりはスラムドッグという勝ちそうもない弱者が、自分の夢のために絶え間なく努力をして、逆境から学んだことを活かしながらすべてを乗り越えていき、最後に大きなものを勝ち取るというストーリー。これは、我々が住むこの世界のどこかで必ず起こっている話だし、国や宗教にかかわらず皆が共感する話だと思うんだ。それに世界同時不況という厳しい局面の中、人々がその長い旅の後に希望を求めていたり、オバマ大統領が当選したことに見られるような変化を望んでいたりと、より外のものに対してオープンになっている傾向も影響していると思う」

そう語るボイル監督に、本作の映画化を決意させたのは「フル・モンティ」のサイモン・ボーフォイが脚色したシナリオ。監督は原作よりも先にシナリオを読んだという。

「とにかく素晴らしいシナリオだったんだ。ムンバイの貧しいスラム街出身の青年が夢のある世界に入り込んでいくところに惹かれたし、貧しい世界と豪華な世界の対比も面白かった。単に小説の脚色ということではなく、ほとんどサイモン自身の芸術作品になっていたよ。もちろん小説のアイデアを活かしているんだけどね。彼の脚本には方向性があるから好きなんだと思う。まるで建築家のように、設計図を描き、始まり、中盤、終わりを作り、そこにシーンを積み上げていく。建築するように積み重ねながら、しばらくするとどこに向かっていくかが見え始める。そういう脚本が好きなんだ。方向性がなくフワフワしているような、調子ばかりいい脚本は好きじゃないね」

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ボイル監督と同様にオスカーを受賞したボーフォイのシナリオだが、主人公ジャマールをはじめ、兄のサリーム、初恋の人ラティカら3人のメインキャラクターの性格が類型的との声もあった。

「それは正にその通りなんだけど、この兄弟2人と女1人というキャラクターのパターンはボリウッド映画では非常に多く見受けられるものなんだ(笑)。兄弟の方は、最後に再会することもあるんだけど、大抵は母親を失っている。そして兄弟のどちらかは、もう2度と傷つきたくないということで、暴力を他者に向けることで自分を守ろうとする性格となり、もう1人はキレイな心を保ちながら、すべてを乗り越えて他人の中にも善を見出すことが出来るキャラクターというパターンなんだ。本作のマリク兄弟のパターンはまさにそれを踏襲している。その他、ボリウッド映画でよく出てくるパターンが“ロスト・ガール”という要素。主人公が好意を持っている女性が突然目の前から消えてしまい、探し求めるというパターン。これも今回の映画には含まれているよね。

あとサイモンは『ムンバイで撮ると、どうしたって(チャールズ・)ディケンズ(※)っぽくなってしまうんだ』って言ってたよ。というのも、ムンバイというところは、現在凄まじい成長を遂げていて、多くの人間が行き交っているだけに、キャラを強く押し出して叫ばなければ、自らの存在をアピールできない街なんだ。だから、ストーリーテリングの上でもキャラクターたちを強く出して、動きを大きくする必然性があったんだよ。これはディケンズの小説に出てくるキャラクターにも共通することで、メロドラマチックであったり、現実だったらこんなことありえないっていう偶然が頻発するんだ」

本作には舞台設定、キャラクター、音楽など、これまでのボイル映画にはない新しい要素がふんだんに盛り込まれているが、ボイル監督がデビュー作から一貫して描き続けている“サバイバル”に関する映画でもある。

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「ご指摘の通り、僕はキャラクターたちを極端な状況に対峙させることが好きで、人生の細かい機微、ディテールにはあまり興味はない。例えば、『28日後…』のように、ハッと起きるとロンドンに人っ子一人いないという状況。こういう方が自分は好きなんだ。それは今回の『スラムドッグ』においても同じで、子供たちが楽しく遊んでいると母親が殺されたりとか、息子が死にそうになったりとか、もちろん実際の人生でそういったことが起きたらとんでもないことだけど、そういうドラマの中で、キャラクターをそういった立場に置くのが好きなんだ。その極端な状況に置かれれば、人はそこからなんとか抜け出そうとするし、解決しようするものなんだよ。僕の映画のほとんどは、そうやってストーリーが進んでいく。だから僕にとって“サバイバル”というのは大好きなテーマなんだ。ちなみに9月からこの『スラムドッグ』の宣伝を続けているんだけど、気がついたのが女性を主役にした映画をまだ撮っていないということ。もちろん重要な女性キャラクターはいままでたくさん登場してるけど、まだ主役にした映画は撮ってないから、それにチャレンジしたいなと思っているんだ」

オスカーを受賞して、新たな代表作となった本作だが、作品を完成させて監督自身が変わったことはどんなことなのだろうか?

「まず、60年前まではインドが大英帝国の植民地だったということで、労働者階級出身であるにもかかわらず、心のどこかで優越感を持っていた恥ずかしい自分を再教育しなければならなかった。人口6000万人のイギリスと比べて、12億人も人口がいるというインド。彼らが自分から学ぶものなんて何もないだろうけど、反対に僕は彼らから様々なことを学ばなければならなかったんだ。

それから、ムンバイというところは、本当に極端なものが隣り合わせに存在している世界で、まったく説明できないようなことがたくさんあった。すべてにおいて色々と説明をしたがる我々西洋人の常識をぶっ飛ばしてくれたんだ(笑)。だから、あるがままを受け入れるということを学んだかな。今回の撮影は他のときと違って、コントロールが一切効かなかった。常に変動し続けていて、何も決まっているものがないから、劇中のつながり(コンティニュイティ)を失うことがあったり、同じテイクを何度も撮るということが出来ないという状況だった。しかも環境的には街の通行人の数は多いし、インフラもまともに整備されていない。そんな中で、コントロールを手放さなければならないということを覚ったんだ。だけど、その代わりに得たものが鮮烈な“生”、生命感だったんだ。この経験は、映画公開後の今もアカデミー賞なんかも含めていろいろなことが起こっているけど、凄く役に立っているんだよ」

いくつもの偶然が重なってオスカー受賞という栄光を勝ち取った本作。監督によると、本作製作過程には運命に導かれたとしか思えない瞬間が数多くあったという。

「実は今回の作品は、もともとワーナー・インディペンデント・ピクチャーズ(以下、WIP)というワーナー・ブラザース映画のインディペンデントレーベルが配給する予定だったんだけど、編集中にこのWIPが閉鎖されて、アメリカでは“ビデオスルーかも”なんていう話になったんだ。そのときに、どういうわけかフォックス・サーチライトが手を差し伸べてくれて、劇場公開出来ることになった。自分にとっては、この経緯と出来事が、まさに“運命”としか思えなかったんだ。“運命”なんていうと、わりとチャーミングでロマンティックな印象を受けることが多いけど、より深遠な、複雑なものであることを今回のインドでの映画製作で実感したんだ。インドに赴くまで、運命なんてそこまで信じていなかったんだけどね(笑)」

2008年製作/120分/イギリス
原題:Slumdog Millionaire
配給:ギャガ・コミュニケーションズ

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スタッフ
キャスト
  • ジャマール・マリク/デブ・パテル
  • ラティカ/フリーダ・ピント
  • サリーム・マリク/マドゥル・ミッタル
  • プレーム・クマール/アニル・カプール
  • 警部/イルファン・カーン
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