(Part1)
スティーブン・スピルバーグ製作総指揮の下、ロバート・ゼメキス監督が手がけ大ヒットを記録したSFアドベンチャー。1985年、高校生のマーティ・マクフライは、近所に住む科学者のエメット・ブラウン博士(通称ドク)が愛車デロリアンを改造して開発したタイムマシンの実験を手伝うが、誤作動で1955年の世界にタイムスリップ。タイムマシンは燃料切れで動かなくなってしまう。困ったマーティは1955年のドクを探し出し、事情を説明して未来に戻る手助けをしてもらうことになるが、その過程で若き日の両親の出会いを邪魔してしまう。このままでは自分が生まれないことになってしまうため、マーティは未来に戻る前になんとか両親の仲を取り持とうと奮闘する。
(Part2)
大ヒットを記録した「バック・トゥ・ザ・フューチャー」(1985)の続編で、シリーズ全3部作の第2部。2作目と3作目はまとめて撮影され、半年の間に続けて公開された。無事に1985年へ戻ってきたマーティの前に、2015年からデロリアンに乗ってやってきたドクが現れ、マーティの将来に危機が生じると告げる。その危機を回避するため、2015年の未来にタイムスリップしたマーティは未来世界での事件を解決するが、そこでのささいな出来事が発端となり、戻った先の1985年は全く違う世界に変貌していた。世界を元通りにするため、再び1955年にタイムスリップすることになったマーティだったが……。
(Part3)
前作「バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2」から直接続くシリーズ3部作の完結編。不慮の事故が発生し、ドクの乗ったデロリアンが1955年から1885年の世界に飛ばされてしまう。その直後、マーティのもとに1885年のドクが出した手紙が届く。ドクの無事を知ったマーティだったが、ふとしたきっかけで70年前のドクは手紙を出した1週間後に死んでしまうことを知る。1955年のドクに協力を求めたマーティは、1885年にタイムスリップ。ドクを死の危機から救うが、デロリアンは故障。ガソリンもない時代にデロリアンを走らせるため、蒸気機関車を利用する手を思いつくが……。
「それって『バック・トゥ・ザ・フューチャー』みたいなやつ?」
映画史上最高の興行収入を記録した『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)にはこんな台詞がある。台詞の主は、アントマンことスコット・ラング。前作『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)のラストで、サノスによって全宇宙の人口が半減。その影響を受けて幽閉されていた量子の世界から脱出した彼は、量子の世界を通れば時間を過去に遡れる、そうすれば歴史を変えられると、アイアンマンことトニー・スタークに提案する。だがハルクことブルース・バナーがタイム・パラドックスの発生を危惧したため、咄嗟にこうした台詞を発したのだ。
映画史上最大のヒット作のプロットの根幹を成すタイムトラベルについて説明するシーンで例として挙げられる作品。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(以下、『BTTF』)とは、それほどまでにウルトラ・メジャーな映画なのだ。
同作の内容を念のため説明しておこう。時は現代(公開年である1985年)。主人公のマーティ(マイケル・J・フォックス)は、カリフォルニア州郊外の街ヒルバレーに住む、ロックギターをこよなく愛する高校生だ。
ある日、彼は親友の老科学者ドク(クリストファー・ロイド)がスポーツカー、デロリアンを改造して作ったタイムマシンのタイムトラベル実験に立ち会う。しかし実験成功直後にドクは犯罪組織によって射殺。パニクったマーティは、デロリアンで逃げようとした結果、1955年のヒルバレーにタイムトラベルしてしまう。30年前のドクの協力を得て1985年に帰ろうとするマーティだったが、若き日の母親ロレイン(リー・トンプソン)と知り合ったことで、自分が生まれなくなる危機に陥る。果たして彼は未来に戻れるのか……というもの。
同作が大ヒットしたことを受けて、1989年には『パート2』が公開。事前の宣伝では、マーティが2015年のヒルバレーを訪れる前半のシーンばかりが宣伝されていたのだが、実はクライマックスの舞台はまたもや1955年。そこでマーティは『パート1』の自分に会わないようにしながらミッションに挑むことになる。
もうわかったはず。歴史を変えるためにアベンジャーズのメンバーが、過去のMCU映画で描かれた時代にタイムトラベルする『アベンジャーズ/エンドゲーム』はプロット自体が『パート2』を多分に意識したものなのだ。
加えて近年、『パート2』の評価がさらに上がる事件が起きた。悪役ビフ(トーマス・F・ウィルソン)が歴史改変された1985年の世界で経営する悪趣味なカジノホテルは、当時実在したアトランティック・シティのカジノ・ホテルをパロディにしたものなのだが、実はその経営者こそがドナルド・トランプなのである。ビフのルックスやファッションもトランプ風だ。そしてこのシーンで描かれた荒廃したヒルバレーの光景を観客は、トランプ政権下のアメリカを予言したものとして受け止めるようになったのだ。
HD『BTTF』は翌1990年に、1885年の西部開拓時代を舞台にした『パート3』をもって完結した。三部作を続けて観たなら、「腰抜けと言われると必ずキレるマーティ」「店で注文した飲み物を飲めずに終わるマーティ」「マーティが気絶して目覚めると横には必ず母親がいる」「手が届くかどうかでハラハラ」「肥料桶に突っ込むビフ」といった同じシチュエーションが執拗に繰り返されることで、全編を通じて唯一無二の笑いのグルーヴが生じているのが分かるはずだ。『BTTF』三部作をクリエイトしたのは、ロバート・ゼメキス(監督、脚本)とボブ・ゲイル(製作、脚本)のコンビ。1964年のビートルズ米国上陸を描いた『抱きしめたい』(1978)や、日本軍のロサンゼルス攻撃を題材にした『1941』(1979、監督はスティーブン・スピルバーグ)といった過去の作品を観ても分かる通り、彼らの作家性は史実への異様な拘りとドライなコメディ・センスにある。
ゼメキスは後年、アカデミー賞作『フォレスト・ガンプ/一期一会 』(1994)でこの路線を極めることになるのだが、脚本の完成度が高いのは断然『BTTF』三部作だろう。『パート1』が公開されたのが1985年というタイミングも最高だった。というのも、『パート1』が今年公開されるとしたら、「現代」は2020年に設定されるはず。するとタイムトラベル先は1990年。これでは日本製品の評価をはじめとする時代のギャップを利用したギャグが殆ど使えなくなる。1985年と1955年だからこそ、ゼメキスたちは破壊力満点のギャグを放てたのだ。それは音楽の使い方にも当てはまる。1985年といえばマイケル・ジャクソンやプリンス、マドンナの全盛期。マーティもマイケルのお家芸ムーン・ウォークが得意な設定で、「パート2」「パート3」でもマイケル絡みのギャグが披露されていた。
対して1955年はというと、ビル・ヘイリーと彼のコメッツの「Rock Around the Clock」が大ヒットしたことで、アメリカの白人たちがロックンロールの存在をようやく知った年である。そんなロック人気爆発直前の中、マーティは飛び入りしたダンスパーティで、チャック・ベリーのロックンロール・クラシック「Johnny B. Goode(ジョニー・B・グッド)」を演奏する。ティーンたちにバカウケするのは当然だ。しかしマーティの演奏に興奮したバンド・メンバーのマービン・ベリーが従兄弟のチャック(つまりロックンロールのオリジネイターであるチャック・ベリー)に「お前の探していた新しい音楽があるぞ」に電話したことでタイムパラドックスが起きてしまう。「Johnny B. Goode」がヒットしたのは1958年のことなのだ。しかも調子に乗ったマーティは、ザ・フーのピート・タウンゼント、ジミ・ヘンドリックス、そしてヴァン・ヘイレンのエディ・ヴァン・ヘイレンをコピーしたギターソロを弾きまくって、ロックの魅力を知ったばかりのティーンたちをドン引きさせてしまう。ぽかんとする観客にむかってマーティは弁解する。「早すぎたかな。でも君たちの子ども(つまりロレインの息子である自分の世代)は理解すると思うよ」
『BTTF』が今年リメイクされたとしたら、このシーンはギャグとして成立しないはず。仮にマーティが、ビリー・アイリッシュとBTSの楽曲を披露したとしても、それぞれシニード・オコナーとニュー・キッズ・オン・ザ・ブロックのファンから喝采を浴びるだろうだから。そう考えると、親子世代の音楽の趣味が天と地ほど隔っていた1985年において、『BTTF』の主題歌「パワー・オブ・ラブ」を歌ったのがヒューイ・ルイス&ザ・ニュースだったのは、ベスト・チョイスだったといえる。ドゥーワップをはじめとするオールディーズ・ミュージックへの愛着を持ちながら、シンセや打ち込みの導入も厭わなかった彼らは、親世代の理解と、子どもたちからの支持の両方を得ていた数少ないロックバンドだったからだ(マーティの部屋には彼らの1983年作『スポーツ』のポスターが貼られている)。
(Part1)
1985年製作/116分/PG12/アメリカ
原題:Back to the Future
配給:UIP
(Part2)
1989年製作/107分/アメリカ
原題:Back to the Future Part II
配給:UIP
(Part3)
1990年製作/119分/アメリカ
原題:Back to the Future Part III
配給:UIP
- 監督:ロバート・ゼメキス
- 製作:ボブ・ゲイル/ニール・キャントン
- 製作総指揮:スティーブン・スピルバーグ/フランク・マーシャル/キャスリーン・ケネディ
- 脚本:ボブ・ゲイル/ロバート・ゼメキス
- 撮影:ディーン・カンディ
- 美術:ローレンス・G・ポール
- 編集:アーサー・シュミット/ハリー・ケラミダス
- 音楽:アラン・シルベストリ
- マーティ・マクフライ/マイケル・J・フォックス
- ドク(ドクター・エメット・L・ブラウン)/クリストファー・ロイド
- ロレイン・マクフライ(ロレイン・ベインズ)/リー・トンプソン
- ジョージ・ダグラス・マクフライ/クリスピン・グローバー
- ビフ・タネン/トーマス・F・ウィルソン
- ジェニファー・ジェーン・パーカー/クローディア・ウェルズ
- デイヴ・マクフライ/マーク・マクルーア
- リンダ・マクフライ/ウェンディ・ジョー・スパーバー
- ジョージ・ディセンゾ
- ジェームズ・トルカン
- J・J・コーエン
- ケイシー・シーマツコ
- ビリー・ゼイン
- ハリー・ウォーターズ・Jr.
- リサ・フリーマン
- クリステン・カウフマン
- エルサ・レイブン
- ウィル・ヘア
- アイビー・ベスーン
- ヒューイ・ルイス